自民党の憲法草案と、民主党鳩山代表の新憲法試案の中身(2)―憲法前文について
まず、現行憲法前文について、両者の評価の概要は次のようである。大日本帝国憲法への復古主義とともに、専制君主制、立憲君主制への強い憧れが感じられる。自民党よりも鳩山氏の方が一段と右翼的ではないか。
(1)現行憲法前文に対する自民党の考え
・ 明治憲法(大日本国憲法)、昭和憲法(現行憲法)にはそれぞれ歴史的意義がある。例えば昭和憲法の基本理念である国民主権、基本的人権、平和主義はそれぞれ継承されなければならない。
・ しかし昭和憲法には日本の国土、自然、歴史、文化など、国の生成発展についての記述がなく、国民が誇りうる前文となっていない。
・ わが国は天皇とともに歴史を刻んできた、多様で高度な独自文化を持つ国だとの記述が無い。従ってこれらを含む誇り高い前文とする必要がある。
(2)現行憲法前文に対する民主党鳩山代表の考え
・ 現行憲法前文の「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、我らの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専従と隷属、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと務めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。」は独立国の憲法として望ましくない。諸国民の公正さを信じて日本の生存を保持しようなどと、情けないことを言うべきではない(試案25ページ)。
・ われわれは、明治憲法の欠陥とともにその成果についても正当な評価を行うべきだ(試案26ページ)。
(3)現行憲法前文
日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、我らと我らの子孫のために、諸国民との共和による成果と、わが国全土に亘って自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。 これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基づくものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令、及び詔勅を排除する。日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、我らの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専従と隷属、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと務めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と隷属から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
われらは、いずれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであって、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立とうとする各国の責務であると信ずる。日本国民は、国家の名誉にかけ、全力を挙げてこの崇高な理想と目的を達成することを誓う。
(4)自民党の憲法草案前文と考察
日本国民は、自らの意思と決定に基づき、主権者として、ここに新しい憲法を制定する。
象徴天皇制は、これを維持する。また、国民主権と民主主義、自由主義と基本的人権の尊重及び平和主義と国際協調主義の基本原則は、不変の価値として継承する。
日本国民は、帰属する国や社会を愛情と責任感と気概をもって自ら支える責務を共有し、自由かつ公正で活力ある社会の発展と国民福祉の充実を図り、教育の進行と文化の創造及び地方自治の発展を重視する。
日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に願い、他国とともにその実現のため、協力し合う。国際社会において、価値観の多様性を認めつつ、圧政や人権侵害を根絶させるため、不断の努力を行う。
日本国民は、自然との共生を信条に、自国のみならず、かけがえのない地球の環境を守るため、力を尽くす。
(考察)
現行憲法前文と、自民党草案前文の違いは、読み比べてみれば明らかである。
愛情は押し付けられるものではない。国を愛せよ、国への愛は国民の責務であると記す自民党草案は大日本帝国憲法を懐かしむ時代錯誤の案ではないか。国民一人ひとりが自分を愛し、隣人を愛することが地域へ広がり、国への愛情となって育まれていくのではないか。現在のように国民一人ひとりが大事にされないようでは、国への愛情が育つはずは無い。自民党草案は何たる本末転倒か。
現行憲法は、国の政治は国民の厳粛な信託に基づいて国民の代表者が執行し、福利等の恩恵は国民が之を享受する・・・これは人類普遍の原理であると記している。しかるに自民党案は、国を愛し、福祉の充実を図り、国際協調等の不断の努力を国民の義務とする、として、現行憲法と全く逆である。現行憲法が、国としての国民への義務を定めているのに対し、自民党草案は国に対する国民の義務を定めているのである。
もう一つの大きな違いは、太平洋戦争に対する反省が自民党草案には全く無いことである。現行憲法がその反省に立って制定されたのとは全く立場を異としている。
(5)鳩山試案の前文と考察
この憲法は、明治二十二年憲法によって創始された議会主義と政党政治の伝統を受け継ぎ、昭和二十一年憲法によって確立された国際協調と平和主義の理念をさらに発展的に継承するものである。
私たちは、人間の尊厳を重んじ、平和と自由と民主主義の恵沢を全世界の人々と共に享受することを希求し、世界、とりわけアジア太平洋地域に恒久的で普遍的な経済社会協力及び集団的安全保障の制度が確立されることを念願し、不断の努力を続けることを誓う。
私たちは、自立と共生の精神に基づいた友愛の国づくりを目指す。すなわち、この国の長い歴史に培われた伝統と文化を受け継ぎ、豊かな自然環境と美しい国土を守り、後世に伝えるよう努める。また、補完性の原理による秩序の下で、地域の自治と自立を最大限に尊重するとともに、地球的視野に立ち、全世界の人々と友情と智で結ばれた、尊厳ある国づくりを共に進めることを念願し、ここに新しい憲法を制定する。
(考察)
鳩山氏は今後の50年を見据えた新しい憲法が必要であるとし、アジア太平洋地域の集団的安全保障制度の確立が必要であると主張しているが、今、世界やアジアの動きは「非同盟中立」、「軍事同盟からの脱却」である。明治憲法への回帰を色濃く表した前文ではないか。氏はまた、「私は天皇制を、日本の伝統と文化の拠り所であるとともに、政治的安定の基礎であると積極的に評価している(32ページ)。」と述べている通り、天皇制を色濃く現した前文となっている。
また、自民党案と同様、太平洋戦争についての反省は一言も無い。
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